全部失って気づいた「本当の強さ」の正体

このTEDを一言で
オバマ大統領に評価され、ビヨンセから資金を得た社会起業家が、10年注いだ会社の倒産で完全に壊れた。パニック発作、うつ、不眠。回復の過程で気づいたのは、「強さとは耐えることじゃなく、自分に優しくできること」だった。
講演者について
Jane Marie Chen(ジェーン・マリー・チェン)
Embrace共同創業者。途上国の未熟児を救う低コスト保育器を開発し、100万人以上の赤ちゃんに影響を与えた。スタンフォード大学出身。会社倒産後の回復経験から、レジリエンスについて語る。
3つのポイント
1. 「成果=自分の価値」だと、失ったとき全部崩壊する
チェンはEmbraceという社会企業を共同創業した。電気がなくても使える低コスト保育器で、途上国の未熟児を救うのが目的。インドに移住し、10年間すべてを注ぎ込んだ。
実績はすごかった。オバマ大統領に評価され、ビヨンセから資金提供を受け、世界中のメディアに取り上げられた。たった1.1キロで捨てられた赤ちゃん、ネイサンが保育器で生き延びてシカゴの家族に養子縁組された話もあった。
でも裏側では、ストレス、疲弊、自己不信に溺れていた。製造、流通、資金調達の課題が山積み。そして10年後、会社は閉鎖。
そこで完全に壊れた。パニック発作、うつ、不眠。身体も精神も粉々になった。
なぜここまで壊れたか。「会社の成功=自分の存在価値」になっていたから。仕事がなくなったとき、「自分は何者なのか」がわからなくなった。
2. 痛みを「仕事」で麻痺させていた
回復のためにインドネシアへ片道切符で飛んだ。サーフボードとスーツケースだけ持って。ジャングルで瞑想、サメとダイビング、カエルの毒の儀式——ありとあらゆることを試した。
でも本当のブレイクスルーは、派手な体験じゃなく子ども時代のトラウマに向き合ったときに来た。
父親は「愛情=優秀であること」で育てた人だった。週末の朝、膝の上で抱きしめながら九九のテストをして、算数大会で優勝させる。でも期待に応えないと、暴力が待っていた。
12歳のとき、天気がいいから庭の芝生で歴史の教科書を読んでいた。父親がそれを見て激怒した。「宿題は机でやるものだ」。殴られて、謝れと言われた。でも初めて謝らなかった。自分は何も悪くないとわかっていたから。
この幼少期の無力感が、大人になって「世界で一番弱い存在(未熟児)を救う」という使命につながった。痛みが目的になった。でも同時に影にもなった。何人の赤ちゃんを救っても、どんな賞をもらっても、「十分だ」と思えなかった。
アルコールや薬物じゃなく、仕事で痛みを麻痺させていた。生産性という名の鎮痛剤。
3. レジリエンスは「耐える力」じゃなく「自分への優しさ」
回復の過程で見つけた3つのことが、講演の核心。
① 感情は「考える」ものじゃなく「感じる」もの
ずっと感情を切り離して生きてきた。研究でも、多くの人は辛い感情を仕事、酒、SNS、その他の気そらしで避けている。でも抑え込んだ感情は消えない。不安、うつ、バーンアウトとして戻ってくる。チェンは泣き、震え、怒りを感じ切ることで、初めて感情が通り過ぎるのを体験した。
② 結果を手放す
海がそれを教えてくれた。サーフィンは風、潮、うねりで毎瞬状況が変わる。コントロールできない。Embraceの結果に執着しすぎて、限界を超え続けた。失敗が来たとき、自分自身が崩壊した。でも本当は、外側の成功や失敗で自分は定義されない。大事なのは「愛を持って行動したか」「成長したか」「誰かに与えたか」。波はコントロールできないけど、乗り方は選べる。
③ 自分の中の「傷ついた子ども」に話しかける
元パートナーに「ジェーンギス・カン」とあだ名をつけられるほど戦い続けた自分。頑張り屋の自分。でもその奥には、「自分は十分じゃない」と怯えている小さな女の子がいた。ずっと他人に「あなたは価値がある」と言ってもらおうとしていた。でも効かなかった。最後に自分自身に向かって言った。
「ごめんね。あなたは悪くなかった。あなたは十分だし、愛されている」
その子は、信じてくれた。
明日から使えるアクション
- 「仕事で忙しい=大丈夫」に注意:生産性で感情を麻痺させてないか、立ち止まって確認する
- 感情を「考えない」:辛いときは分析せず、ただ感じる時間を作る。泣きたかったら泣く
- 自分に声をかける:「もっと頑張れ」じゃなく「よくやってるよ」。自分が一番の味方になる
感想
「レジリエンス=タフさ」だと思ってたけど、「自分に優しくできること」がレジリエンスだと言い切ったのが印象的だった。
仕事に打ち込んでるとき、「充実してる」と「痛みを麻痺させてる」の区別って本当につきにくい。何かを失って初めて気づく。でもこの講演を聞いた後なら、失う前に「自分は成果と切り離しても大丈夫か?」と自問できるかもしれない。
最後に、Embraceは誰かに引き継がれて復活し、目標だった100万人の赤ちゃんに到達した。でもチェンが一番誇りに思っているのは「自分自身を受け入れられるようになったこと」だと。10分の講演なので、気になった方はぜひ。